研究概要 |
本研究は「犯罪の経済学」の理論分析をカルテルの抑止分析に応用したものである。具体的に我が国の課徴金制度によるカルテルの抑止効果について計量分析を試みた。準備作業として,第一に課徴金制度が導入きれたときの経済状況をミクロとマクロとの両面から再考察し、第二に課徴金制度の導入時における公正取引委員会試案と政府案をめぐる論争点を明確にすることを通じて制度がもつカルテル抑止効果について検討した。次にカルテル違反企業を違反条文別(独禁法3条後段,8条1項1号),業種別カルテル別,カルテル別(価格引き上げ,価格維持,受注調整)に分類し各項目の単相関分析をし,相互関係を確認した。 計量分析すべき抑止効果として,カルテルの自発的排除の増減,発生件数自体の削減,実行期間の短縮をとりあげた。そして抑止効果を高める政策手段として,公正取引委員会の審査部職員数,審査活動費用などの内生変数と経済成長などの外生変数とを用いた。 その結果,公正取引委員会によるカルテルの抑止効果について,次の研究成果を得た。1.カルテルの自発的排除件数を増やすには,審査活動費用を充実したり,警告や注意を発するという公正取引委員会にとっての内生変数が有効であった。2.カルテル発生件数を抑制するには審決を下した1件当たりの課徴金額を引き上げたり,外生変数である経済成長に期待することが有効であった。3.カルテルの実行期間を縮小するには審査部職員数と課徴金納付命令件数とを増やして,脅しをかけたり,経済成長に期待することが有効であった。 なお,今後の研究展開方向として,1.課徴金制度の導入前後における抑止効果の比較,2.課徴金と違反件数との弾力性,3.違反企業の資本金額別規模でみた抑止効果の検証をする必要があろう。
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