1.対内直接投資が政策論議の対象となった背景が日米独では異なっている。米国では経常収支の赤字が背景であったのに対し、ドイツにおいては産業立地国としての自国の競争力の喪失の有無とそれへの対応策が背景となっている。米国の貿易指向性に対し、ドイツは雇用指向的といえる。日本の政策論議に関してはドイツとの類似性が高いことがその特徴である。 2.日本の直接投資における内外不均衡問題に対する従来の分析視点は二つの意味で問題がある。第一に対内直接投資を重視し、日本企業の対外直接投資行動に見られる問題性への言及がないこと。第二に企業行動の能動性が十分明示的に示されていないことがそれである。 3.ミクロの行動原理の基となるものとして企業統治に注目する、との分析視点をとるとこうした問題点を改善でき、直接投資をめぐる政策論議に建設的な貢献を行なうことが可能となる。従って、現在日本で問題となっている対内直接投資の不均衡問題の分析に当たっては、従来一般的であったマクロ的接近方法や、企業戦略に重点を置いたミクロ的接近方法に加えて企業統治の視点からの分析も行うべきである。 4.日本の対内直接投資政策に関しては、精査的対応の対象となる領域は企業の直接投資行動に影響を及ぼす制度的条件が中心となるべきである。環境変化への迅速な対応をやりやすくするためのリストラ促進政策や、新規事業への参入のための事業連結をしやすくする制度的枠組の整備といった範囲での対応策が有効であるだろう。
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