研究概要 |
本研究は2つの部分からなる.1つは,区分的定曲率であることより,測地線の挙動が一般のリーマン多様体の場合より,把握し易いことから,その最小跡の構造を解析し,区分的定曲率多様体の曲率と位相との関連を調べ,リーマン多様体の場合と比較,検討しようというものである.もう1つは,区分的定曲率のうち,特に区分的平坦な多様体(以下では簡単のため多面体と呼ぶ)の場合に限って,その組合せ論的扱い方を摸索するものである. 前者においては,特異点で非負に曲がっている区分的定曲率空間の最小跡の局所構造は,錘構造をもっていること,また,距離関数を用いてある種のhandle分解ができることを示した(現在,執筆中).リーマン幾何の問題として知られる概Blaschke予想(リーマン多様体で,直径と単射半径とが近ければ,階数1の対称空間に位相同形か?)の区分的定曲率多様体の場合には,本質的には,上述の最小跡の構造を用いて,肯定的に解決できる見通しが得られた.しかし,本来の概Blaschke予想の解決のためには,更に,本質的な問題「断面曲率がK以上のリーマン多様体を,特異点で非負に曲がっている区分的に曲率が一定値Kの多様体で近似可能か?」が残される.これに関しては,区分的平坦で,特異点では全て正曲率(0でない)多様体では,近似不可能であることが,Cheegerによって示されており,現在の所,難しい問題である.もう少し,弱い形で示し,概Blaschke的であることを用いることを検討する必要があるかもしれない. 後者の多面体の幾何に関しては,かなり進展があったことを以下に報告する.まず,基本的な問題として,リーマン幾何の出発点ともなった,古典的曲面論におけるガウスの驚異の定理(外在的曲率と内在的曲率とが一致する)の3次元ユークリッド空間内の多面体におけるアナロジーが,大体,成立する(mod 4πで一致する)ことの極めて初等的な証明が与えられ,更に,完全には一致しない例も存在することが示された(現在,執筆中).また,一般次元の場合にも,本質的な部分となる球面の体積の組合せ公式の見当がついた(すでに,知られているものかどうか現在,検討中).最近,断面曲率が1に近い超曲面が,大体丸い(単位球とハウスドルフ距離が近い)ということが報告されている.しかし,断面曲率でなくガウス・クロネッカー曲率が1に近いという仮定のもとで示されることが期待される.これに対して多面体の場合には,ミンコフスキーの定理(1897)を用いて証明することができ,近似することで超曲面の場合にも解決した(現在,執筆中).これらの例から,ユークリッド空間内の余次元1の多面体に対しては,組合せ論的な扱い方が古来からいくらか知られているようであるが,その再発見の重要さが示されたものと思われる.この方面の今後の発展が期待される. 最後に,離散ラプラシアンのスペクトル問題に対しても,多面体の1-skeltonをグラフと扱うのが有効であること,また,数学教育の面からも,多面体の幾何が今後,その重要性をますことが分かった.
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