研究概要 |
強誘電体における自発分極は基本的な物理量であるが、その実体を微視的に明らかにするのは困難で、依然として非現実的と思われる点電荷モデルが用いられている。KH_2PO_4のようなPO_4イオンを含む水素結合強誘電体の典型物質における自発分極、構造相転移のメカニズムや同位体効果の起源を微視的な視点から明らかにするため、KH_2PO_4に比べ対称性の制約のない特徴をもつNaH_2PO_4を参照物質としてまず選び、30Kで精密なX線回折データを収集した。このデータを解析し、変形電子密度分布を得た。 現在までに得られた結果は、以下に要約される。 1.0.3〜0.6eA^3の大きさの変形電子密度の明瞭なピークがP-O結合の中間に認められた。 2.各P原子核の位置に対して、P-O結合の変形電子密度のピークの対称的な位置に、-0.2〜-0.4eA^3の大きさの変形電子密度の凹みか肩が認められた。 3.P-O結合のピークの高さと形は、P-O(H)結合よりもより高くより明瞭である。 4.孤立電子対の領域の変形電子密度の分布は、P-O結合のピークの高さと形に比べより不明瞭である。 5.〜0.2eA^3の大きさの変形電子密度のピークが、O-H結合の中間に認められた。このピークは、〜-0.4eA^3の大きさのより大きな変形電子密度の凹みを伴っている。 6.得られた実効電荷は、形式的な点電荷の値に比べて中性の値にずっと近く、Na +0.2,P -0.7,O -0.7,H +0.5であった。 7.得られたネット電荷や、プロトンサイトでの変形電子密度の凹みの大きさは、水素結合距離との間に線形関係が見られた。
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