研究概要 |
低次元伝導体における電気伝導の次元性を検討する事を目的として,擬一次元半導体TiS_3と、電荷密度波の生成が知られている擬二次元伝導体η-Mo_4O_<11>について以下の点を明らかにした。 ◎擬一次元半導体TiS_3 1.化学気相法による,単結晶の最適育成条件を確立した。原材料を真空封入したアンプルを,低温側480℃,高温側520℃に保った時,最も良質のTiS_3単結晶が得られる。 2.TiS_3は,電子を多数キャリアとするn型の不純物半導体である。伝導帯の底に存在する準位がフェルミレベルをピンするため,10^<17>cm^<-3>程度のキャリアが内在する。さらに,バンドギャップ中に10^<18>cm^<-3>程度のドナーが準位を形成し,100K以上になると,ここから電子が供給される。このときの活性化エネルギー△は約24meVである。 3.キャリアの散乱は,100K以下ではイオン化不純物散乱が支配的であり,それ以上の温度ではLAフォノン以外に(i)バンド構造の低次元性を反映した異常散乱,(ii)有極性光学フォノンによる散乱など何らかのキャリア散乱機構が働いている。 4.室温におけるラマン散乱の測定から,295,365,553cm^<-1>に,光学活性なフォノンによるラマンバンドが観測された。 ◎擬二次元伝導体η-Mo_4O_<11> 1.77Kでb-軸方向にしきい電場以上の電場をかけると,不純物や格子欠陥等によるピン止めを外して電荷密度波が並進運動し,電気伝導に寄与し始める。 2.bc面内(2次元伝導面内)で電場の方向を変えても,電荷密度波はb-軸方向にしか並進運動しない。これは,電荷密度波の並進運動が,1次元的であることを示している。 3.以上の結果は,電荷密度波の並進運動の次元性は,実空間における結晶構造(2次元的)よりも,結晶の対称性すなわちネスティングベクトルが単一かどうかで決定されることを示唆している。
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