研究概要 |
2つの強磁性体を電極とし,十分に薄い絶縁体膜をトンネル障壁とする強磁性トンネル接合のトンネル電流は2つの電極の磁化の相対角度に依存し,いわゆる巨大磁気抵抗効果(GMR)を示す。強磁性トンネル接合での磁化過程とトンネル電流の関係は1980年(前川禎通:固体物理15,171('80))に初めて明らかにされたが,1988年の金属人工格子によるGMRの発見以来,その現象の類似性が認識されるようになってきた。そして,最近では様々な強磁性トンネル現象が実験的に示されている。 その中に強磁性微粒子を含む酸化膜のGMR(H.Fujimori et al.:Mat.Sci.Eng.B31,219('95))がある。Al_2O_3中に数10Å程度の大きさのCo微粒子を分散させる。この場合,各微粒子は単磁区になっており,系は超常磁性を示す。この系では電気伝導は電子が絶縁体中をトンネルし,Co微粒子間を飛び移ることによる。さらにこのような微粒子系では電子が移動することによる静電エネルギーの変化も無視できない。すなわち,微粒子の電気容量が小さいため,電子のトンネルにより微粒子間で電荷のアンバランスが起こる。そのため静電エネルギーが増加し,トンネル効果が抑えられる。 本研究では,磁性体間の電子のトンネル効果とトンネルとにより生じる静電エネルギーの変化を取り入れて,このような微粒子系のトンネルコンダクタンスの一般式を導き出した。今,強磁性体中の電子のスピン分極の割合をP,磁場により誘起される磁化の割合をm(0【less than or equal】m【less than or equal】1)とする時,コンダクタンス G=G_0(1+P^2m^2)exp(-2√2kC/K_BT). ここで,G_0は磁場の加わっていないときのコンダクタンス,Tは温度である。また,k及びCはそれぞれの障壁の電子状態及び微粒子の分布に依存する定数である。この式は上記の実験をうまく説明する。 微小な系での静電エネルギーの変化がトンネル効果に本質的な働きをする例に単一電子トンネル素子がある。この系では電子の伝播経路に微小な領域が作られており,そこには電子が1個づつしか飛び込めない。この効果をクーロン・ブロッケイと呼ぶ。今,強磁性体でできた微小領域を2個電子の伝播経路に導入すると単一電子トンネル素子に磁場の効果がつけ加わる。これをスピン・ブロッケイドと呼ぶ。このように微細加工技術を用いてスピンの効果と静電エネルギーを組み合わせることにより新しい現象が期待される。
|