研究概要 |
試料の作成に予想外の問題点があり時間を費やした.当初計画の焼結温度1050℃,徐冷法ではLa_2BaCuO_6不純物相が微量に析出し超伝導特性を悪化させることが判明した.La_2BaCuO_6の生成は1000℃以下で促進されるので,焼結温度を更に上昇させ急冷法によりこの不純物相は取り除かれることが分かった.なお,試料の融解を起こさず焼結温度を上昇させるには,出発物質の炭酸化物BaCO_3をBaO,CO_2に分解しCO_2を充分取り除く必要があることも分かった.そこで,真空引きしながら700℃で炭酸化物を分解した後,焼結温度1150℃に急上昇し,反応後急冷する方法を探ることにより不純物相の無い試料を得た.この方法によりx=0.125を中心とした前後組成8種類の良質の試料を準備した.超伝導特性は期待通りx=0.125近傍の組成で超伝導を示さなかった.次にこれらの試料について,低温正方晶(LTT)転移温度以上での,特異組成近傍でのCu原子の荷電状態の異常の有無を調べるため,300K,77KでCu-NQRスペクトルのx依存性を測定した.その結果,NQR周波数νQが300K,77Kどちらでも特異組成x=0.125近傍で〜300kHzの異常な落ち込みを示した.これは,この組成付近でのCu原子近傍の荷電状態の変化を示唆している.300Kでは全ての試料が高温正方晶(HTT),77Kでは全て斜方晶(LT0)であるので,この荷電状態の変化は結晶構造変化によるものではなく,ドープされたホールの再配置によるものと考えられる.特異組成近傍の超伝導抑制は,より低温で起こるLTTへの構造相転移や長距離磁気秩序の出現とのからみで議論されてきたが,より高温領域においても前駆的異常が存在することを示したこの結果は重要であり,現在公表準備中である.長距離磁気秩序-超伝導相図や反強磁性的スピンゆらぎの変化については,試料の作成に時間がかかり,現段階では行っていない.今後の課題である.
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