研究概要 |
数種類のシアニン色素を用いて、そのTCNQおよびTCNQ類似の分子であるTCNQF_4の錯塩結晶を作成し、その中で良い結晶の得られた5種類の結晶について、結晶構造解析を行うと共に、帯磁率、ESRの測定を行った。その中で注目される2種類の錯塩結晶についてまとめる。 (1)[3,3′-Diethyl-2,2′-Thiazolinocyanine]-TCNQ この結晶では、シアニン色素とTCNQ分子が交互に重なって1次元的な柱構造を形成しており、TCNQ分子上の不対電子の磁気モーメントに起因する1次元的な磁性が、帯磁率およびESRの実験により明らかになった。また、1.49Kで3次元的磁気秩序状態に相転移していることが、比熱の測定より明らかになった。さらに、この物質は、高橋らの最近の理論で指摘されている1次元ハイゼンベルグ反強磁性体の0K近傍での臨界現象が観測される最初の物質であることを示唆した。 (2)[3,3′-Diethyl-2,2′-Oxacarbocyanine]-TCNQF_4 この結晶は、かなり大きなシアニン色素分子とTCNQF_4との錯塩結晶であり、1次元的に積み重なったTCNQF_4をシアニン色素が取り囲み、TCNQF_4カラム間の相互作用が極端に弱いと思われる。その結果、理想的に近い1次元ハイゼンベルグ磁性体と思われ、(1)の錯塩結晶よりも交換相互作用がかなり大きいにもかかわらず、1.4Kまで3次元的秩序をおこしていない。ESR吸収幅は、1次元磁性体に特徴的な顕著な温度および角度依存性を示すことも明らかにした。
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