代表的な有機金属であるTTF-TCNQとポリピロールのESR線幅の周波数依存性を温度を変えて詳しく調べた.装置の改良のうち、低周波アンプは順調に動いているが、パソコンによるオンライン制御と、40GHzまでの周波数の拡張は、現在、完成を待っている.補正予算分の事情もあり、遅れている.さて、当初は、報告されているNMRの結果との比較が興味深かったが、観測されたESR線幅の周波数依存性は全く予想と違った振る舞いを示した.すなわち、周波数を上げた時、準一次元電子系では周波数の平方の逆数に比例して減少するが、観測されたのは、周波数の1〜2乗に比例して増大した線幅が100MHz以下で飽和し、測定した最大値2000MHzまで一定値を保った.このような振る舞いは、運動による局所磁場の揺動が線幅の原因だとすると、周波数が無限大の極限で揺動の振幅が必ず零になるはずであり、異常な振る舞いだと言わざるを得ない.しかしながら、局所磁場の振幅が磁場と共に増大することがあれば説明可能になる.その例として、TTF鎖とTCNQ鎖とで異なったg-シフトを持っている場合で、実効的な局所磁場の振幅が周波数に比例する.残念ながら、この機構は絶対値が小さすぎて実験結果を説明できない.一方、フェルミ面上にg-シフトの異方性があり、且つ電子間に交換相互作用がある場合には、やはり観測された周波数依存性が現れることが知られているが、しかしながら、これでも絶対値が小さすぎる.他方、この異常の振幅の温度依存性は、53Kの電荷密度波(CDW)転移温度以上でのCDW揺らぎに起因する伝導度の温度依存性に大変良く似ている.現状では、CDW揺らぎによってもこの異常の説明は完全にはつかないが、大変興味深い類似性である.この異常に似た振る舞いは、他の導電性高分子などでも見つかっており、これらの関連についても検討していく.
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