研究概要 |
本研究では、磁性不純物(Mn,Fe,Co,Ni)を微量に含む常伝導体(銅)を超伝導体(Nb)に近接したクラッド線を作成し、磁性不純物によるスピン反転散乱と温度との関係を詳しく研究することを第1の目的としている。研究の最初の段階において、クラッド線を焼鈍するときに一部の不純物が散乱効果を消失する可能性があることが分かり、これを検証するのにかなりの時間を要した。結論としては、Mnの場合は、600C、Ar雰囲気中または真空中で、アルミナ・ボ-トまたは石英ボ-ト上で焼鈍すると磁気的散乱が殆ど消失することが判明した。試行錯誤の結果、同じ雰囲気中で、銅のボ-ト上で焼鈍すると磁気的散乱が殆ど消失しないことが分かった。他方、Fe,Co,Niの場合は同じ条件下で焼鈍しても磁気的散乱効果は影響されないことが分かった。これらの結果を踏まえて、全ての試料を新しく焼鈍なおしてからマイスナー効果の測定をおこなった。 実験の結果は、Mnについては全く新しいデータが得られた。すなわち、Mnを含む銅のマイスナー領域の長さρはおよそ0.5K以下の温度ではほぼ一定となった。これはスピン反転散乱の効果から期待されるもので、はじめて近藤効果によるク-パ-対破壊の効果を近接効果の測定でとらえた実験となった。この結果を解析した結果、スピン反転散乱の確率は電気抵抗に寄与する全散乱の約1/3であり、少なくとも、24mK以上では殆ど温度に依存しないことが分かった。また、データを近藤効果の理論と比較して、定性的にはよく一致することも分かった。Mnの近藤温度は約50mKとされているのでさらに温度を下げると対破壊効果が減少し、再び、ρが増加することが期待される。残念ながら今年度は時間がなくなったので、さらに低温の実験は平成8年度におこないたいと考えている。次に、近藤温度の高いFe,Co,Niについては豊田らの実験とよく一致した。これらの結果は平成8年夏に低温国際会議で発表し、また、欧文誌に発表する予定である。
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