Tl_2Ba_2Ca_2Cu_3O_<10>超伝導体中のCu^<2+>ESRの温度変化を測定し、試料の超伝導転移に伴うg因子・線幅・強度の様々な異常を観測した。まず、転移温度T_c以下でg値が減少し始め、外部磁場に対する超伝導遮蔽効果によって説明された。一方、線幅はT_cよりもむしろ磁束の融解温度T_m以下で増大を生じ、混合状態における凍結された局所磁場の不均一性によるものと考えられた。また、T_mとT_cの間では、磁束の熱的な揺動によるmotional narrowingが示唆された。さらに、強度はT_cで急激な低下を示し、磁場変調の周波数が低くなるほど顕著な効果が観測されたが、これは磁束の粘性振動に伴う変調エネルギーの散逸に起因すると解釈された。 次に、局所磁場の不均一な拡がりに寄与しうる様々な要因とそれに由来する磁場分布を詳しく調べるために、YBa_2Cu_3O_<7-δ>の焼結体・単結晶・配向性の試料を作製し、それぞれの試料表面に薄くコーティングしたDPPHフリー・ラジカルのESRを観測した(スピン・プローブ法)。まず、焼結体ではT_c直下で観測された不均一な線幅の拡がりが、低温では明瞭なダブル・ピークに変化した。そこで線形のシミュレーションを行ってそれぞれのピークごとにESRパラメータを求め、電子顕微鏡による表面観察とX線分析による組成評価と併せて検討したところ、焼結体では混合状態による局所場よりも、試料の不均一性(超伝導の強弱)が、大きく効いていることが分かった。一方、単結晶試料では、線幅の拡がり方がかなり小さいのに対して、配向性試料ではその微細構造に対応して、より拡がった線幅が観測され、スピン・プローブ法の有効性と適応性が示された。 関連して、直流磁化や電気抵抗、Mn不純物を導入したY系超伝導体のESR測定なども行い、磁束の不可逆特性などの特異な振舞いと局所磁場分布の特徴の相関を総合的に検討した。
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