本研究ではまず、動的破壊のモデリングと解析を行うために、2次元、および3次元の理想的な脆性結晶の数理モデルを構成し、そこに比較的単純な破壊規則を導入することによって、少ない計算量で比較的大規模な系のシミュレーションが可能なコードの開発を行った。すなわち、弾性論的には大域的に物体を取り扱う一方で、破壊過程で生じる2次衝突や再融合などを捨象することによって、破壊現象の本質を損なわないまま計算量を減らすことに成功した。 開発したコードを用いて、各種条件での高速破壊をシミュレーションによって再現した。本研究では衝突破壊過程とそれに従う破片生成の解析を主な課題とし、以下の知見が得られた。 1.衝突による歪みは平面波状に縦波の音速程度で進行し、亀裂生成の箇所もまた平面波上に局在する。 2.衝撃破壊過程における亀裂生成は、衝撃は物体内を通過する時点でほぼ完了し、それに引き続いて破片の散乱過程がべき乗的な時間スケールで進行する。 3.最終的に得られる破片のサイズ分布関数は、べき乗分布でよく特徴付けられる。3次元でのシミュレーションでは、分布関数のべき指数はほぼ5/3で、実験で知られている値とよく一致する。 以上をもとにして、衝突破壊における破片の生成過程に対してスケーリング理論を適用し、サイズ分布関数を特徴つけるべき指数を理論的に導出した。すなわち、分布関数のべき指数をβとし、系の空間次元をdとすると、β=2-1/dなる関係式が得られ、これは従来知られていた種々の実験や、本研究でのコンピュータシミュレーション結果ともよく一致している。さらに、衝撃波面のん形状(平面、円筒、球面状など)によってこの指数が変化する可能性を示し、シミュレーションによって検討を行った。 本研究で得られたこれらの知見は、破壊力学のみならず、地球科学、惑星科学などさまざまなスケールで生じる破壊現象にも適用することができ、サイズ分布関数などの情報から破壊過程を類推するための基礎となるものと期待される。
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