研究概要 |
ガラス転移での構造緩和の動力学とそれにおける幾何的拘束の効果を検討するために、広範囲の非晶質半導体(As_2S_3,As_xSe_<1-x>(0≦x≦0.4),( As_2S_3)_<100-x>Ag_x(0≦x≦6),(GeS_2)_<1-x>(Sb_2S_3)_x(x≦0.33),Ge_xS_<1-x>(0.07≦x≦0.37),ゼオライト中に担持されたSe)を対象にして示差走査型熱量計を用いてガラス転移近傍での比熱を測定し、その比熱曲線に拡張指数型緩和関数を用いたMoynihanモデルを適用することによってガラス転移の動力学パラメータを求めた。平均配位数(組成比x)を連続的に変えることによって局所構造,構造の次元,力学的拘束を制御し、また規則的細孔を持つゼオライトに担持することによって幾何的拘束を課したそれらの試料において、ガラス転移の動力学パラメータが各物質の構造状態(幾何学的拘束;特に、次元性,フラクタル的構造)及び原子結合状態の特徴(力学的拘束)と強く相関していることが明らかとなった。特に、非晶質体において共通に観測される構造緩和の非指数性は、構造のネットワーク次元や異方性、つまり幾何的拘束と密接な相関があることが確証された。また、フィクティブ温度の低下に伴う構造緩和の非指数性の増大をスピングラス転移に適用される超計量空間モデルを用いることによって首尾良く説明し、準安定状態の階層的エネルギーバリア分布(階層的拘束)がガラス転移点近傍での構造緩和に強く反映されていることを示唆した。さらに、Seをゼオライトに埋め込み、そのガラス転移温度と活性化エネルギーが顕著な細孔径依存性を示すことを見出した。このガラス転移のサイズ効果における知見は、ガラス転移の協力現象を解明する上で非常に興味深い。また、Ge_xS_<1-x>の低温低周波ラマン散乱によって観測された非デバイ型振動励起状態にフラクトンモデルを適用することによってフラクタル次元を求めたところ、ガラス転移における構造緩和の非指数性とこのフラクタル次元には強い相関があることも明らかとなった。
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