研究概要 |
1.磁場の方向と入射イオンの速度ベクトルの方向が任意の場合に使える磁場存在下での電子捕獲断面積を求める緊密結合方程式を定式化すると共にプログラムの開発を行った。(B^<4+> +H), (He^<2+> +H), (Be^<2+> +H), (Be^<3+> +H)系の電子捕獲過程に対し、このプログラムを適用してさまざまな結論を得たが、そのうちの主なものは次のとおりである。(1)状態により、磁場による効果は断面積を増加させるだけでなく減少させることもある。(2)磁場方向が衝突平面と垂直である場合に磁場の影響が最も大きくなる。これは磁場が回転結合と相乗的に働くためである。また磁場の向きによっては磁場の項と回転結合が互いに打ち消し合うため、断面積が減少する場合もある。(3)磁場方向と速度ベクトルの方向の間の角度に関し積分した全断面積は磁場の強さと共にゆるやかに増加する。またこの影響は低エネルギー程大きい。内殻電子の影響を調べるため、現在(B^<4+> +H)系と電荷が同じ(N^<4+> +H)系に対して同様の計算を実行中である。 2.イオンの運動によって生じる標的の分極と磁場との相互作用が電子捕獲過程にどのような影響を与えるか調べるため、この相互作用を含んだ緊密方程式の定式化を行い、プログラムを作製した。このプログラムを用いて断面積のモデル計算を行ったところ、その影響は特殊な場合を除きかなり小さいことがわかったので当面この項は無視することにした。 3.He^<2+>イオンをH原子に衝突させたときに起こるHe^+ (21)+H^+状態への遷移は共鳴的過程のため磁場の影響がカオス的になる可能性がある。この系の電子捕獲断面積を計算したところ衝突対が非常に離れた所でシュタルクミクシングによる遷移が起こることがわかった。この遷移だけなら状態間の乗り移りが起こらないとして通常のg-u遷移の扱いをすればよいが、この系ではそれと同時に回転結合による遷移が起こっており、衝突計算をしなければならない。この項を取り入れたプログラムを作製し、現在実計算を行っている。 4.偏極した光を観察するなど対称性をうまく利用した測定をすれば、磁場の働かない時は遷移しない状態が観測できるようになる。どのような実験をやればよいか実験家に提案するため、いくつかの系を選んで計算を実行中である。
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