高温超伝導体の示す磁気的性質と、ミクロな量子系としての原子分子との相互作用の実験的研究を通じ、その態様を明らかにすることを目的とした研究を行なった。基本的な手法として、真空中に温度T_c以下の高温超伝導体表面を用意し、その近傍での原子分過程について、原子分子に起因する磁束と磁束量子との関わり、第二種超伝導体の混合状態におけるエネルギー散逸の原子分子過程への影響などを定量的に調べる。表面と相互作用を行なう原子分子の状態検出に際しては、波長可変のパルスレーザーを用いる。既に前年度までに励起用のNd:YAGレーザーを導入し、パルス分子線とのタイミング、励起レーザーの変化に伴う色素レーザー装置の調整などを行なった。このNd:YAGレーザーを、現有の色素レーザー装置の励起源として用いることにより、真空中の原子分子の共鳴イオン化信号のS/N比を大幅に向上させることが可能となった。 実験においては微視点磁気モーメントとしての原子分子をパルス分子線として用意し、その並進状態、内部状態に着目して、レーザー誘起共鳴イオン化法により、散乱過程を追跡する。現在のパルス分子線装置は3段の差動排気であるが、平成7年度の経費により2段目の排気装置としてターボ分子ポンプを導入し、表面散乱の実験に不可欠のオイルフリーの環境を実現した。固相法および半溶融法により作製した超伝導体試料について、比較を行いつつ実験を実施した。これまでにYBa_2Cu_3O_x超伝導体を超伝導微粒子の集合として扱うモデルにより、微視的な磁気モーメントである原子分子との相互作用のモデル化についても、一定の指針が得られており、今後、実験結果との比較考量によってモデルの精密化を図りたい。
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