第一イオン化ポテンシャル付近や、それ以上に高い電子励起状態にある分子で起こる動的過程について理論的な研究を行った。今回取り上げた過程は、2原子分子イオンの解離性再結合(DR)と解離性励起(DE)であるが、その機構は他の諸過程と共通している。これらの過程では電子状態も原子核の相対運動状態もともに、高い密度の状態と連続状態が関与し、両状態間の結合も強く、かつ量子効果が大きい。このような低いエネルギー状態とは非常に異なる状態を有効に表現する方法を開発するとともに、具体的な分子系で理論計算を実行することにより、実験の解析および理論の有効性を確認した。取り上げた分子系はHDとHeH(+それらの同位体)である。両者は解離機構が異なる典型例であるとともに、共同研究の形で同時に進んだク-ラーリングによる実験で最も精度良く測定された系である。 解離性共鳴状態の存在するHD^++eでのDRでは、衝突エネルギー1eVを境に、低エネルギー側では、回転運動、および非断熱性を考慮した電子共鳴散乱を正確に評価する方法を提案し数値計算を行った。結果はDRにみられる共鳴構造の解析を初めて可能にした。1eV以上のエネルギーでは、共鳴状態のRydberg系列が多種類関与する。これらの系列を考慮し、多チャンネル量子欠損理論(MQDT)に連続状態である解離状態を離散化した基底を導入して、DRとDEの計算を実行した。実験結果の解析を行うとともに、DRとDEの共通性を理解した。また、実験で得られない原子分子データを集積した。 HeH^+のDRでは、解離性共鳴状態がないのにHD^+に近い大きな確率で起こることと、その理由を明らかにした。用いた方法は解離状態離散化を導入したMQDTであるが、閉じた解離チャンネルの概念により解離状態間の非断熱効果を表現可能にした。回転状態も考慮することにより、実験に現れるDRスペクトルの構造と同位体効果を再現することに初めて成功した。
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