研究概要 |
九州中部の九重連山のひとつ、星生山から延びる尾根(硫黄山)の北東斜面に従来から活発な噴気活動があり、マグマ性の蒸気を放出している。また、噴気地縁辺から強酸性高塩分の温泉水が湧出している。1995年の10月に噴気地南方の尾根付近で水蒸気爆発が発生した。従来の噴気孔と新噴気孔からの蒸気凝縮水、及び温泉水を採取し、水素・酸素安定同位体比とトリチウム濃度を測定した。研究成果の概要は以下の通りである。 1.温泉水の同位体比には、天水に比べて著しく高いものがあり、その原因を同位体比の高いマグマ蒸気の混入に求める研究者は多い。しかし、温泉水の同位体比が限られた範囲にあること,吐気には液体の水から平衡蒸発してない高温蒸気が多く存在することなどから,マグマ性蒸気の温泉水への混入は小さい可能性がある。 2.地域の天水が浸透途中に蒸発しながら臨界点付近まで高温化し,それが上昇して地表近くで沸騰を起こせば、実測された同位体比の高い温泉水は生成されうる。この理論的計算の結果は、温泉水中にマグマ性蒸気の混入を必ずしも必要としないものであり,また,天水の一部は臨界点まで高温化していることを示唆する。また、天水蒸気には,臨界点以上の温度まで高温化してい部分が存在することを示唆する。噴気の一連の同位体組成は、超臨界状態の天水蒸気とマグマ蒸気との混合を表すとみて矛盾しない。 3.噴気のトリチウム濃度は、浅層の循環水と同様の値を示し、温泉水はそれよりも低い。これは、表層の循環水(滞留時間5〜6年)が超臨界温度まで高温化し、マグマ蒸気と混合する過程が速いことを示唆する。一方,温泉水のトリチウム濃度は100年以上の滞留時間に対応されるものである。活火山体では、天水が超臨界蒸気になってマグマ蒸気と混合し地上に戻る循環系がメインシステムであり、温泉湧出系はそれから分岐したサブシステムであると考えられる。 4.活火山から湧出する強酸性温泉水の化学的形成機構を考察し,単体硫黄の加水分解で硫酸の生成される過程を論じた。また,強酸性熱水に適用できる地化学温度計を硬石膏-水系で実験的に開発した。
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