北太平洋における黒潮を始めとする亜熱帯循環系の海域を対象とし、風成海洋循環理論に基ずく力学の有効性の検証を目的として、以下のことを行なった。 第一に、気象庁および米国海洋大気局によって編集されている航行船舶の観測資料を取得・編集し、海上風の月平均データセットを作成すると共に、それらの1960年以降の時系列データを用いて変動場の解析を行った。その結果、中緯度海域に卓越する偏西風が年々強化する特性が見出され、これに伴い風成海洋循環も強化することが示唆された。他方、船舶資料における観測手法の変遷を調査した結果、偏西風強化の一因として船上における観測高度の上昇が無視できないことが明らかとなった。これは、船舶資料を用いた同様の研究に対する喚起を促すと共に、長期変動場における風成海洋循環の力学の有効性を検出する困難さを提起しているといえる。 第二に、欧州宇宙機関の人口衛生(ERS-1)に搭載された散乱計から得られる海上風データの精度検証として、船舶による海上風および数値予報モデルによって客観解析された海上風データとの比較を行った。その結果、海上風速は概ね20%以内の誤差で互いに一致し、ほぼ精度上実用性に問題ないと考えられる。一方風向に関しては、モンスーンが支配的な西部太平洋で誤差が最大90度近くに達し、特に約3m/s以下の低風速時では風向の信頼性が低下することが明らかになった。こうした風向の不確定性は、海洋循環の駆動力である海面応力の回転場の算出において20%程度の誤差をもたらすと考えられ、風成海洋循環の力学的考察においても今後注意すべき問題であることが示唆された。
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