研究概要 |
南部北上帯の形成と古地理的変遷を明らかにするために,(1)南部北上帯の古生代構造発達史,とくに南部北上帯の基盤形成に関わる前期古生代構造発達史に関して検討し,と中朝地塊・揚子地塊・オーストラリア地塊などとの構造発達史的比較研究を行った.(2)頭足類化石の古生物地理にもとづく後期古生代〜前期中生代の各年代ごとの古生物地理区に関する研究を行い,(1)の成果とあわせて南部北上帯の古地理を復元した. この研究で,南部北上帯(南部北上古陸)は付加体を原岩とする前期古生代の高圧型変成岩や,沈み込みに関連する,約440Maの深成岩類などからなるカレドニア基盤をもち,非変成の浅海成中部古生界がそれらを覆っていることが明らかにされた.この南部北上古陸の古生代構造発達史に関する知見とテチス東部地域のいくつかの陸塊のそれとの比較の結果,および古生物地理に関する資料をあわせ考えると,現時点では,前期古生代の南部北上古陸の形成場所としては,ゴンドワナ大陸北縁の,オーストラリアと華南ないしインドシナの両者に近接した位置,例えば両者にはさまれた地帯を考えるのが妥当であるという結論を得た. ペルム紀〜三畳紀アンモノイド群集の解析の結果,南部北上古陸は中期〜後期ペルム紀にテチス赤道区に属し,揚子地塊に近接しており,より高緯度にあった中・朝地塊とはやや離れていたことがわかった.また,中期ペルム紀のチモール,後期ペルム紀のハンカ地塊も南部北上古陸と同一のアンモノイド地理区に属していた可能性が大きい.このような中国南部・ハンカ・南部北上古陸の3者の密接な古地理的関係,とくに後2者のそれは少なくとも中期三畳紀まで続いており,南部北上古陸は,中国南部とともに,中生代に入って北上を始めたと考えられる.
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