研究概要 |
北海道の蝦夷累層群の中でも相対海水準変動の記録をよく保存している浅海堆積相(三笠層,函淵層群)を対象として,堆積相の4次元分布から堆積シーケンス(DS:depositional sequence)を認定し,併せて化石相の変遷との関係を考察した. 最後期アルビアンから後期チューロニアンの三笠層には3つのDSが認められ,その分布や構成する堆積体はDSと地理的位置によって異なるが,堆積中心が北方から南下しながら形成された.浅海軟体動物化石密集層は高海水準期に形成された下部外浜〜内側陸棚相に多く含まれる.函淵層群は芦別地域では2つのDSが明瞭であるが,北海道南部大夕張〜穂別地域については,やや小規模のDSが少なくとも7つ以上認められた.したがって,相対海水準変動の様式が堆積盆内の位置によって異なっていた可能性が指摘される.一方,中頓別地域では沖合い細粒岩相が卓越し比較は難しいが,少なくとも2つの層準に厚い浅海成砂岩相が含まれており,2つもしくは3つのDSが予想される.従来から白亜紀-第三紀境界層が露出すると考えられている日本の数少ない地域でもあり,本研究でも,最上位DSは古第三紀のものである可能性が高いことが確認された. これまでの成果を総合して,三笠層と函淵層群のシーケンス層序について,東北日本の後期白亜紀層との比較を行った(Ando,1997).断片的な地層分布にも関わらず,従来より汎世界的海水準変動曲線の標準的モデルとされたHaq曲線と位相,振動がかなりよく類似している. 一方,三笠層で代表されるセノマニアン-チューロニアン(C-T)境界に二枚貝ファーナの組成に大きな変化があり,ごく一部を除いてほとんど属種が入れ替わる.これは白亜紀中期に陸棚平底砂泥底群集に大きな進化したことを示唆している.しかし,函淵層群相当のカンパニアン〜マストリヒシアンには化石層が少なく,白亜紀後期〜末期の変遷の実態はまだ十分わかっていないが,少なくともC-Tほど大きな変化は認められない.
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