研究概要 |
生痕化石の化石化過程を理解するため,野外において化石の産状ならびに形態観察を行った.同時に化石サンプルを採取し持ち帰り,軟X線撮影,XRD分析,薄片による顕微鏡レベルでの観察など,より詳細な検討を行った.検討は,浅海および深海で堆積した地層の両方で行った. 検討は,生痕化石の化石化過程,特に地層中に保存される条件とそのメカニズムに焦点をあてた.その結果,生痕化石の保存条件は,地層が形成された水深には余り左右されず,むしろ,堆積が連続的に起きていたか,または断続的に起きていたかに強く支配されるらしいことが判明した.浅海および深海を問わず,連続的に堆積物が堆積する安定環境では,深部潜入者が形成する一部の生痕化石が保存されるに過ぎない.これは,大部分の生痕は,時間的に後に活動した生物による撹拌作用の影響で消し去られてしまうからである.一方,断続的に堆積が起こる場合では,生痕化石は極めて良い状況で保存される.生物浅海の場合,台風などによって引き起こされる一過性の高エネルギー環境下で形成されるストーム堆積物中で,生痕化石の保存状況が特に良好であった.これは,本来は消し去られてしまうような生痕化石が,急速埋積によって後の生物活動の影響を受ける範囲から外れたことに原因があるらしい.深海の場合では,浅海と同様な断続的堆積という条件がタ-ビダイトの堆積に伴って形成される.このことが,浅海の場合と同様のメカニズムを生じさせ,本来は生物撹拌作用で消去されるべき生痕が保存されることが明らかとなった.すなわち,生痕化石が地層中に化石記録として保存される条件は,海底で急速埋積のような不安定環境が断続的に形成させることが必要らしい.
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