研究概要 |
1.〓歯の多型には(1)主歯・前後側歯全て正常、(2)前側歯・主歯正常、後側歯逆転、(3)前側歯・主歯逆転、後側歯正常、(4)主歯・前後側歯全て逆転の4型がある。この4型は明瞭に不連続である。 2.平成7〜9年度の第3系、第4系化石の調査、および現生標本の調査から、逆転は異歯亜綱二枚貝では比較的原始的であると考えられているChamidae,Carditidae,Cardiidae,Astartidae,(Trapezidae)で観察され、特化の進んだCrassatellidae,Tellinidae,Veneridaeでは見られないという結果が得られた。このことは、逆転が特定の分類群に限られる現象であり、不連続な多型であることと併せて、逆転が遺伝学的にコントロールされていることを示唆している。 3.平成7年度、9年度の研究により逆転の頻度はCarditidae0.3-1.1%,Crassatellidae 0.3-0.4%,Astartidae 0.8-2.0%程度であることが分かった。 4.Chamidaeでは右殻固着種群であるPseudochamaと左殻固着種群であるChamaの関係は逆転により発生したとする説が有力であったが、〓歯の個体発生の検討の結果、少なくともChama japonicaとPseudochama gryphina,Arcinella arcinellaの〓歯の類似は相同ではないことが確認された。 5.Chamidaeでは種内に逆転個体が見られる種が複数知られている。これらの種に比較的新しい時代に逆転によってもたらされたものが存在する可能性は完全には否定されない。今後それらの種の系統分類を検討する必要がある。 6.〓歯の多型は遺伝学的形質である可能性が高く、化石に基づく進化研究の良い素材であるが、逆転の頻度が概ね1%未満と低く、統計学的検討のためには膨大な標本が必要である。 7.第3系、第4系Carditidae,Astartidaeの検討では、同一種内の逆転頻度の変化には地質学的時間との間に明瞭な傾向を示すものは確認出来なかった。
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