研究概要 |
スイス・ベルン大学および国立極地研究所等から入手した9種類の隕石試料を化学処理し,イオン交換法にて試料中のLa,Ce,Nd,Sm,Eu,Gdの分離を行い,各元素の同位体比測定を行った。測定には国立科学博物館既存の熱イオン化質量分析計(VG Sector 54-30)を用い,7つの検出器による同位体の同時検出にて高精度の測定をおこなった。 9試料のうち,ベルン大学のEugsterらによる希ガス測定から宇宙空間での宇宙線の照射が希土類元素の同位体組成の変動に影響を及ぼしている可能性があると思われた5試料を含め7試料においてSm,Gdの同位体組成に異常が認められた。同位体異常の傾向としては,いずれも^<149>Sm,^<155>Gd,^<157>Gdが減少した分がそれぞれ^<150>Sm,^<156>Gd,^<158>Gdの増加分にほぼ定量的に匹敵しており,これは明らかに中性子捕獲反応を受けた形跡であると考えられる。高エネルギープロトンから成る宇宙線が惑星物質との相互作用により二次的に生成される中性子フラックスの総量をSm,Gdの同位体比の変動から換算すると5種類のコンドライト隕石は2x10^<15>〜4x10^<15>(neutrons/cm^2)であり,2種類のエコンドライト隕石はコンドライト隕石よりも数倍高い1.2x10^<16>〜1.5x10^<16>という値を示した。とくにコンドライト隕石における同位体比変動は従来の測定法では検出できない領域であるが,相対誤差0.001%以下での高精度測定と測定試料調製時における高収率化学分離が本研究の成果をもたらしたといえる。
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