研究概要 |
本研究においては、気相にパルス的に生成したM(遷移金属原子)およびM_2(遷移金属ダイマー)を定量的かつ時間分解で検出する実験手法(LIF)を開発するとともに、それを用いて“裸"のMおよびM_2と簡単な分子(O_2,NO,NH_3等)との反応速度定数を測定し、遷移金属のモノマーとダイマーの間にある反応性の違いを考慮することを目的とした。 まず現有設備であるNd:YAGパルスレーザーとNd:YAGパルスレーザー励起OPOレーザーを用いたフラッシュフォトリシス‐レーザー誘起蛍光法(LIF)システムを設計製作した。誘起蛍光は、小型分光器を通して光電子増倍管(PMT)により検出した。このPMT電源としてリップルの小さい直流高圧安定化電源(松定プレシジョンHJPM‐3R5‐SP,設備備品として購入)を用いた。PMTからの微小信号は高速差動増幅器(NFブロックmodel5305,設備備品として購入)を用いて増幅し、デジタルオシロもしくはボックスカ-積算器により処理した。また安定な試料気体のフローを得ることは正確な反応速度定数を測定する上で大切であるので、マスフローコントローラおよびマスフローコントローラ電源(ESTEC;SEC‐400MKおよびPAC‐6E等,設備備品として購入)を気体試料供給系に組み込んだ。実験装置の設備調整後、モリブデンキサカルボニル(Mo(CO)_6の気相紫外多光分解実験において、基底状態モリブデンモノマーMo(a^7S_3)およびダイマーMo_2(X^1Σ^-_g^+)を、319nm近辺のa^7P_J(J=4,3,4)←a^7S_3の遷移および518nm近辺のA^1u+←X^1Σ_g^+の遷移を利用して、時間分解で検出することができるようになった。室温気相において、MoおよびMo_2と小さな代表的な分子(O_2,NO,NH_3等)の反応速度定数を測定すると、両者の間に顕著な反応性の違いがあることが明らかになった。今後は、モリブデン以外の遷移金属の反応性を調べるとともに、d軌道(HOMOやLUMO)と物質との相互作用の違いを量子化学的な側面から理解したいと考えている。
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