研究概要 |
本研究の目的は,スピン多重度を変換する分子系を考案することにある。分子の構造変化に対応して分子のスピン状態 を変えられるなら,応答機能を持った機能性磁気分子が創製されることになり,有用である。スピン状態を変えるための構造変化としては,a;二つのスピンの空間的位置を変える方法と,b;二つのスピン中心をつないでいる共役系を変える方法を考えた。各々に対応して3つの実験を独立に進めた。 (1)まずaに適した系として,ホスト,ゲストともにスピン源を持つ分子系では,分子認識に伴って包接錯体が形成されると,スピン間相互作用により多重項状態ができあがるであろうと考えた。β-シクロデキストリンを修飾し,側鎖にニトロキシド基を一つ持つ分子を合成した。現在包接能について検討中である。 (2)スピン源を持つ異なる開殻分子を望みの空間配置で接近させる方策として多重水素結合による相補選択的分子配列の可能性について調べた。予備的な段階として,まずはスピン源の無い分子系;メラミン(M)とコハク酸イミド(S)の水素結合分子錯体を作り,4軸x線結晶構造解析を行った。予想通り1:1錯体ができ,S--M--M--Sという直線平板分子配列を単位としてカラム状の組織化が起こっていることがわかった。 (3)bのスピン源をつなぐ共役系を変化させる高スピン分子として3,3'-ジナイトレノトリフェニルメタン誘導体を考え合成した。トリフェニルメタン型では二つのナイトレンは空間を通した相互作用により基底1重項(ESRにより熱励起5重項が観測された)であることがわかった。一方酸性でトリチルカチオンになると共役が伸び,ナイトレン間で共役系を通した相互作用が可能になり,5重項基底状態が期待される。予想通り5重項種を検出したが,基底状態についての実験は継続中である。 以上,水素結合などを利用して分子の空間配置を変えることでスピン多重度を変化させる系について研究を行った。
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