研究概要 |
還元反応は酸化反応と共に重要な反応であり、新規還元剤の開発は勇気合成化学的にも大きな役割を果たすことになる。遊離基的還元剤として、ヒドロシラン類が多岐に亘り使用されているが、ヒドロスタナンと比較すると反応性は低下する。我々は、種々の有機ケイ素化合物の反応化学や構造化学の研究の一環として、9-シラアントラセン誘導体や9,10-ジシラアントラセン誘導体の反応化学的研究より、後者が遊離基条件下で著しく反応性が高いことを見い出した。この事実の説明のため、新しい考え方である渡環(p-d)π相互作用を提唱した。本研究においてはこの相互作用を利用した分子設計を行い、新たなるより活性な還元剤を開発を目的として研究を遂行した。 渡環(p-d)π相互作用により安定化を受けると考えられるシリルラジカルの前駆体として、ジヒドロアントラセン骨格を有し、9位にヒドロシリル基を持ち、10位にd軌道を有するような原子S, Si, Ge, Snなどを導入した化合物、また、10位にd軌道は含まないがO, Nなどを組み込んだ化合物の合成を行った。更に、この渡環相互作用を明確にするために、開環モデル化合物の合成も行った。アントラセン骨格以外でもナフタレンのペリ置換体やジナフタレン誘導体など広義の(p-d)π相互作用を持つことによる有効な還元剤となると推察できる化合物の合成を行った。これらを用いて遊離基条件下での有機ハロゲン化合物の還元やヒドロキシ誘導体からの脱酸素反応を行った結果、10位にケイ素原子やイオウ原子を組み込んだ化合物が最も効果的であることがわかった。開環モデル化合物は同条件下では殆ど反応しなった。また、合成した化合物の反応性についてはラジカルクロック方を用いて速度論的にも詳細に調べた。これらの結果については現在投稿準備中である。
|