研究概要 |
シアノソース側の錯体の合成に手間取り、現在のところ、目的のシアノ架橋複核金属錯体の合成には成功していない。しかしながら、当初はシアノ架橋を受ける側の錯体として設計・開発したいくつかのニッケル(II)及び銅(II)錯体において、以下に述べるような興味深い性質が確認できた。 (1)トロボロンあるいはヒノキチオールとN-あるいはN、N'-メチル置換エチレンジアミン類を含む混合配位子ニッケル(II)及び銅(II)錯体を多数合成し、主にそのソルバトクロミズムについて明かにした。これらの錯体は溶媒の極性に関わりなく溶解して多様なソルバトクロミズムを示すとともに、それらの電子スペクトルが溶媒の極性についての一つのパラメーターを与えることを明かにした。 (2)1-ベンジル-1,2-エタンジアミン(bezen)を含むニッケル(II)錯体(trans-[Ni(H_2O)_2(benzen)_2]X_2:X=Cl,Br,or NO_3)の固相熱化学反応を検討したところ、deaquation-anationによりいずれの塩ともに、シス-アニオノ錯体へと変化することがわかった。合成が難しいとされているシス体の生成には、かさ高い置換基を持ち、しかも対称性の低くなるモノ置換体ジアミンが適していることを明かにした。 (3)光学活性なジアミン類を含むニッケル(II)錯体(trans-[Ni(H_2O)_2(diamine)_2]X_2:X=Cl,Br,or NO_3)の固相熱化学反応を検討したところ、シス-アニオノ錯体に変化する例が数多く見られた。これは対応するジアミンのラセミ体を含む同型の錯体の場合と大きく異なっていた。シス錯体の生成にはジアミンの光学活性種が有利であるとともに、ラセミ体を用いた時のジアクア錯体は、trans-[Ni(H_2O)_2(d-diamine)(l-diamine)1X_2の構造を持つことが明かとなった。
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