研究概要 |
1.電導性有機-遷移金属複合系は新しい型の錯体分子システムであり、最近申請者らにより合成されたジアミノグリオキシム金属錯体とTCNQとの電荷移動錯体[M(HDAG)(H2DAG)]TCNQ(M=Ni,Pd,Pt)はその初めての例である。この錯体を最初のモデル物質として物質合成・物性研究を行なってきた。最近新規に金属配位子をエチレンジアミノグリオキシムに変えた物質を合成した。これに加えて、π電子系を有するベンゾキノンジオキシム金属錯体とTCNQとの電荷移動錯体も新たに合成した。 2.オキシム系配位子は、酸‐塩基性を有する。そこで、エチレンジアミノグリオキシム錯体とTCNQの電荷移動錯体において、オキシムの酸‐塩基性を利用したTCNQのフィリング制御を試みた。電荷移動量ρ(TCNQ^<-ρ>)が0.2、0.7、1.0(ラマン分光法により電荷移動量を評価した)の電荷移動錯体を作り分けることに成功した。 3.これら錯体の単結晶を用いて、室温から極低温までの電気伝導度・ESR・磁化率の研究を行ない、キャリヤ-の種類・濃度、伝導電子の散乱機構等の輸送現象について明かにした。特に、カラム間水素が伝導電子を捕獲するという興味深い現象が観測された。 4.同じ錯体の単結晶において、赤外から可視、紫外域にいたる偏光反射スペクトルを測定した。結果を解析し、それらの電子構造と電荷移動励起状態の性質を明かにした。また赤外吸収分光・ラマン分光により、電子‐プロトン結合に間するフォノンの興味ある知見を得た。 5.上記の錯体の単結晶において高圧下の測定を行ない、圧力印加による物性変化について電気的性質と光学的性質を調べた。 6.XPSの測定により、ベンゾキノンジオキシム錯体において、200K付近で中心金属から配位子へ電荷移動することがわかった。この際、中心金属は混合原子価状態に移行する。 d‐π電子結合型複合錯体システムにおいて、成分錯体系では見られない興味ある現象が観測された。これらの現象に、カラム間水素結合が関与していることが強く示唆された。
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