研究概要 |
1.カチオンラジカル塩の合成とHOMOの決定.[Co_3Cp_3(μ_3-CPh)_2]をLiClO_4やLiPF_6を支持電解質として電解酸化することによりカチオンラジカル塩,[Co_3Cp_3(μ_3-CR)_2]X(X=ClO_4,PF_6)を合成,単離した.この内,[Co_3Cp_3(μ_3-CPh)_2]ClO_4の良好な単結晶を得て単結晶X線構造解析を行った.Co-Co距離は酸化前の平均距離(2.382(9)Å)と比べて1つは大きく縮み(2.272(1)Å),1つはあまり変化ず(2.3721(9)Å),もう1つはわずかに伸びた(2.4244(7)Å).また,Co-C(cap)距離は1つが大きく伸び,残りの2つはあまり変化しなかった.モデル化合物[Co_3Cp_3(μ_3-CH)_2]に対するEHMO計算の結果からはHOMOはe′となったが,これとエネルギーの近いいくつかの軌道に関してここから電子が抜けることによる距離の変化について検討を行った.その結果,HOMOはe′′であることが明らかとなった.また,このカチオンラジカルのESRスペクトルは溶媒を変えたり塩を加えることによってその線形が変化しHOMOが縮退軌道で外部の影響を受けやすいことを示している.2.中性種の銀塩との反応性.[Co_3Cp_3(CPh)_2]を各種銀塩AgX(X=ClO_4,PF_6,NO_3,CF_3,CO_2)と反応させた.配意性の弱いClO_4やPF_6の塩ではCH_2Cl_2中で中性種は酸化されてカチオンラジカルが生成した.一方,配位性の高いNO_3やCF_3,CO_2の塩を反応させたところ1つのCo-Co間にAgXが架橋した構造の化合物が得られた.また,配位性の弱いPF_6の塩でもCH_3CN中で反応させるとCH_3CNが配位した銀がCo-Co間を架橋することが分かった.これら銀が架橋した化合物の構造では銀はCo_3平面内にはなく,Co_3とCo_2Agのなす角度は約160度でHOMOにAg^+が結合したと考えて矛盾しない構造となっている.
|