研究概要 |
本研究は機能性材料探索の基礎として、水熱合成法を用い、層間に異種原子や分子を組み込むことで新しい層状構造をもつバナジウム酸化物を開発することを目的とした。主な成果として、新規層状構造をもつ物質α-Zn_<0.25>V_2O_5・H_2O、Cs_2V_4O_<11>、BaV_6O_<16>・nH_2Oを合成し構造決定を行った。その他に、新規層状物質:Rb_<0.5>V_2O_5、AV_3O_8(A=K,Rb,Cs)、δ-M_<0.25>V_2O_5・H_2O(M=Ca,Ni)や新規層状トンネル状物質:M_XV_3O_8(VO)_y・nH_2O(M=K,Rb,Ba)の合成、構造決定、層間反応の評価を行い、さらに構造未知の準安定相FeVO4-IIについて単結晶構造解析と磁気物性評価を行った。主要な成果を以下に述べる。α-Zn_<0.25>V_2O_5・H_2Oは本研究で見いだされたことからバナジウムブロンズ系α相と名づけられた。この物質のV_2O_5層の枠組み構造と層間水和Znイオンの構造について明らかにした。また、同形の結晶がCo,Ni,Mn,Mgとの複合化でも合成された。Cs_2V_4O_<11>はV_4O_<11>層と層間Cs原子からなる層状構造であるが、V_4O_<11>層のV原子の酸素配位が4配位と5配位を不規則にとる特異な構造をもっている。BaV_6O_<16>・nH_2OはLi電池正極材料として期待される単斜晶γ-Li_<1+X>V_3O_8と類似の層構造をもつが、層間Ba原子配置とV_6O_<16>層積層モードより斜方晶の長周期構造をとる。δ-M_<0.25>V_2O_5・H_2O(M=Ca,Ni)はブロンズ系δ相に分類される物質であるが、本研究で初めて水和層での層間分子の構造が明らかになった。すなわち、イオン半径のより小さいNi^<2+>は層間で八面体6配位をとるが、より大きいCa^<2+>は7配位をとる。M_XV_3O_8(VO)_y・nH_2O(M=K,Rb,Ba)は層の層状構造が基本であるが、層間が部分的に架橋されトンネル状の構造にもなっている。これは、限られたサイズの層間カチオンを取り込んで構造が形成される。 以上のように、本研究において新規層状物質を開発するという目標が充分達成され、これら新物質の反応性、物性の探究からさらに機能性の追求への発展と期している。
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