研究概要 |
フェロセンは可逆なレドックス種であり、有機πアクセプターとの電荷移動錯体はユニークな光学的、磁気的性質を持つことが知られている。したがって、フェロセンを直接連結したオリゴ及びポリ(フェロセニレン)は、レドックスサイト線形結合系におけるサイト間電子的相互作用と電気化学的特性との相関を調べるのに有効であるとともに、その電荷移動錯体の物性は興味深い。しかしながらこれまで、その溶解性の低さから十分な研究が行われていなかった。本研究では、新規合成した可溶性オリゴ(フェロセニレン)を用いて、レドックスサイト線形結合系に関する理論的考察を検証するとともに、可溶性ポリ(フェロセニレン)の電荷移動錯体の光伝導性を見出した。 まず、7核までの可溶性オリゴ(1,1'-ジヘキシルフェロセニレン)を合成単離し、それらのレドックス特性を調べることによって、核数とレドックス電位との相関を明らかにした。その結果、レドックスサイト線形結合系において隣接する酸化サイト(O)-還元サイト(R)2極間の相互作用エネルギーU_<OR>にさらに3極間相互作用エネルギーU_<OXR>を導入した理論によって説明できることを明らかにした。次に,鉄カルボニル基を末端に結合したフェロセン単量体、二量体、三量体を合成し、酸化過程におけるカルボニルの赤外吸収変化をモニターすることにより、レドックスの過程の構造変化のセンシングを行った。例えは三量体では、[R-R-R-Fe(CO)_3]→[R-O-R-Fe(CO)_3]→[O-R-O-Fe(CO)_3]→[O-O-O-Fe(CO)_3]に伴う変化を観測したが、これはU_<OR>にもとづく理論と一致するものである。 一方、分子量4千以上のポリ(1,1'-ジヘキシルフェロセニレン)の電荷移動錯体の導電性、光伝導性について検討した結果、TCNE錯体がp型半導体特性にもとづく顕著な光伝導性を示すことを見いだした。
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