研究概要 |
本研究の目的は、有機分子薄膜における光電子の実効的な散乱過程を解明し、ARUPSの実用解析法を開拓することである。この目的に沿って、これまでに以下のARUPS測定・シミュレーション計算を主に行い、それに平行して解析プログラムの作成・改良を行った。 1.HOPGグラファイト、MoS2基板上に分子線蒸着して作製した有機半導体BTQBT配向超薄膜において、π分子軌道からの光電子強度の放出角(θ,φ)依存性を測定し、超薄膜格子点上の分子配向角を初めて定量的に決定した。また、測定に用いた特定の実験条件下では、光電子の自己散乱(self-scattering)を考慮した独立原子近似による解析が有効であることを明らかにした。 2.ナフタセン配向超薄膜において、価電子帯の全分子軌道について光電子強度を計算し、最近接分子の原子による光電子の1回散乱(single-scattering)と脱出深さ(escape depth)を考慮すると、実測スペクトルをよく再現できることを示した。 現在、解析プログラムは、光電子放出強度の励起光エネルギー依存性計算のための改良を終え、C60薄膜において観測される特異な励起光エネルギー依存性を計算スペクトルで再現することに初めて成功している。今後は、光電子の多重散乱(multiple-scattering)をプログラムに取り込み解析精度をさらに高めるとともに、2次元表示型電子検出器の使用を検討している。
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