研究概要 |
水とアセトニトリルあるいはジオキサンの混合溶媒に塩を加えると塩析効果よって相分離が起こる。相分離の原因を溶媒の特性と溶媒構造から検討した。相分離した体積はAl^<3+>>Mg^<2+>>Ca^<2+>Ba^<2+>>>Na^+>K^+>NH^<4+>>Li^+,SO_4^2>Cl^-の順に減少し、イオンの水和エネルギーと関係づけられた。水-アセトニトリルの1:1(体積比)混合物から相分離した溶媒は水を4.5M、塩化ナトリウムを2.5x10^2M含み、E_T値、D_<II,I>値はそれぞれ、228kJ mol-1と48kJ mol-1であった。この値は純溶媒では最高の極性溶媒であるニトロベンゼンよりも極性が高いことを示す。それは、アセトニトリルの高い誘電率に加えて、有機相への水や塩類の溶解によるためである。この相分離に基づいて、クロロフォルムや1,2-ジクロロエタンには抽出されない陽イオン性金属ポルフィリン錯体をイオン対抽出することができた。イオン対は有機相で定量的にプラス1価の陽イオンに解離し,更に一部はプラス2価に解離していることが明らかになった。このように有機相でほとんど解離していることは今までにない現象である。塩析効果によって相分離した溶媒への金属ポルフィリン錯体のイオン対抽出機構を明らかにし、種々の金属ポルフィリン錯体の抽出定数は[Cu(tmpyp)]^<4+>>H_2tmpyp^<4+>=Zn(tmpyp)^<4+>]>[Fe^<III>(tmpyp)Cl]^<4+>>[Co^<III>(tmpyp)Cl]^<4+>>[Mn^<III>(tmpyp)Cl]^<4+>の順に減少した。平面性型の構造をとる化学種ほど容易に抽出される。三価の金属イオンは錯体の水和のために抽出されにくくなる。また相分離溶液のX線構造解析から、相分離現象は溶媒の水構造の変化によることが明らかになった。即ち、塩化ナトリウムの濃度の増大とともにイオンへの水和が増大して、溶媒の水素結合生成が切断される。特に第2第3水和圏の構造の変化が相分離に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。以上の研究結果より、塩析効果による相分離溶媒はイオンをイオンのままで抽出できる新しい有機溶媒として多方面に今後利用されうる。
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