研究概要 |
日本のモグラ類3種のうち,アズマモグラMogera imaizumiiの場合,本州中部以北の主要分布地から隔離された8つの遺存個体群が本州南部,小豆島,四国の山地から知られている.一方,サドモグラM. tokudaeの場合,越後平野の主要分布地からなられた見附市・栃尾市付近と,新津市・五泉市付近においてアズマモグラの分布域内に隔離個体群がある.これらの隔離個体群の隔離機構は三つのタイプに分けることができた.a)全体として土壌条件が悪く,それが大型優勢種の侵入を制限し,小型劣勢種の遺存個体群が維持されている場合で,各地の高標高山岳地に残存するアズマモグラ小個体群がこれにあたる.これらは大きな環境改変がないかぎり維持されると思われる.b)優勢大型種の生息に不適な,障壁となる環境がその侵入を制限しているため劣勢小型種の遺存個体群が維持されているもので,紀伊半島南部や小豆島の海岸に分断されたアズマモグラ個体群がこれにあたる.ただ,この場合,障壁内の生息地そのものは優勢種にとっても生息可能で,優勢種によってその障壁が突破された場合,劣勢種個体群は急速に駆遂される可能性が高い.c)耕地基盤整備事業による大規模の土木工事によりモグラの主要生息地である水田畦の多くが大型種の生息不適地に改変され,大型種の後退後に小型種が進出,大型種の分布を分断しているもので,越後平野のサドモグラ遺存個体群がこれにあたる.生息地の改変が続けば,その後退は今後も進行する可能性が高い.mtDNAのCO1遺伝子の分析結果から,四国,小豆島,中国地方のアズマモグラ隔離個体群は一つの近縁なクラスターを形成し,富山や石川のものに近い紀伊半島のアズマモグラとの間では比較的大きな遺伝的分化がみられた.サドモグラの越後平野の隔離個体群の遺伝的分化はほとんどみられなかった.
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