研究概要 |
ブナとイヌブナが同時に結実の農作年となった機会を捉えて,野外の実生個体群の追跡調査,光条件を変えた圃場成長実験,光合成測定および過去の結実年の調査を行い,実生更新特性を比較解析した。 1.実生の発生する林床の光条件は子葉期から本葉展開期は明るく,夏には相対照度2%以下にまで低下する。林床ではブナの方が生存率が高く,死亡要因の一部は動物による食害であった。2.二種の間には,イヌブナの方が子葉保持期間が2倍以上も長く,本葉はブナの方が早く展開するなどのフェノロジーの差異や,イヌブナの方が子葉が著しく大きく高い位置に着き,本葉は薄く大きいなどの形態的差異があった。暗い環境ほど両種ともに子葉の寿命が長くなり,種間の差が大きくなる傾向があった。3.全重量での成長では光条件に関わらず種間の差はなかったが,イヌブナの方が地上部により多く分配する傾向があった。純同化率はブナの方が大きかった。異なる光条件に対して,相対的にブナは生理的な活性で,イヌブナは形態的な変化で対応する傾向があると言える。4.子葉は両種とも陽葉型の光-光合成特性を持ち,最大光合成速度はブナの方がやや高く,本葉と同程度の高さを持つことなどが明らかになった。林床が明るい春期の子葉による光合成生産は重要であり,特に子葉の寿命が長いイヌブナでは顕著であるであることが示された。本葉はブナの方が活性は高く,上記の成長解析の結果を支持した。5.稚樹の齢と母樹の年輪パターンからの結実年の調査を行った。過去25年間の豊作年はブナは7回,イヌブナは6回であり,同調性は見られなかった。日本海側のブナとの同調性は低かった。結実は年輪幅と強く相関しており,年輪幅のパターンからある程度過去の結実を推定することは可能なことが明らかになった。
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