研究概要 |
明るい場所に生育する陽生植物の呼吸速度は高く,陰生植物の呼吸速度は低い。この低い呼吸によって,陰生植物は正の物質収支を保っていることは,ふるくから指摘されてきた。しかし,なぜ,呼吸速度が生育光環境によって異なるのかは全く明らかでない。そこで,本研究では,陽生植物のホウレンソウと陰生植物のクワズイモの葉において夜間の呼吸の諸性質を比較し,次の結果を得た。 (1)ホウレンソウの呼吸速度は,夜間,時間とともに減少した。一方,クワズイモの呼吸速度は,夜間を通じてほぼ一定であり,速度の絶対値は,葉面積当たり,乾重量当たり何れにおいても,ホウレンソウより低かった。 (2)ホウレンソウの呼吸速度と葉の糖類濃度との間には,強い正の相関があったが,クワズイモでは,相関がほとんど認められなかった。 (3)明け方,糖類の濃度が下がったホウレンソウ葉片にショ糖を与えると,呼吸速度は著しく上昇したが,クワズイモでは,この効果が見られなかった。 (4)クワズイモ葉片に脱共役剤を与えると,呼吸速度は著しく上昇したが,ホウレンソウでは,上昇しなかった。 これらの結果から,「ホウレンソウでは,呼吸速度は基質レベルによって律速され,クワズイモでは葉内のATP利用反応速度によって律速されている。」と結論できる。
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