研究概要 |
異所的分化につづく,集団間の2次的な接触の間の相互作用は,生殖隔離に関与する特性の補強や資源競争を緩和する形質置換をもたらし,種の共存を可能にする進化的に重要な過程であると考えられる.2次的接触時点の生殖隔離が十分でなく,移動が地理的に制限された集団間では,分布域の接点において長期的な交雑種(集団)の形成も予測され,また交雑は起こるが雑種の適応度が低い場合には,雑種崩壊によって2種間の側所的分布が維持される場合もある.本研究では,オサムシ科オオオサムシ亜属の2つの種間交雑系を材料として,近縁種(系統)間の相互作用の生態的・進化的側面を解析した.(1)三重県で側所的に分布するイワワキオサムシとマヤサンオサムシの狭い交雑帯の維持機構:2種の間では交尾前の異種認識が確立しておらず,異種間交尾が起こるが,交尾の際に雌では交尾器の破損による死亡が高頻度で起き,雄では長い交尾片を持つマヤサンオサで交尾片が頻繁に破損した.こうした障害のため,雑種個体が得られる確立は低いが,F_1個体は2種の中間の交尾器形態を持っていた.交尾器形態の錠と鍵の不適合による種間交配の障壁と,また稀に生産されるF_1の低妊性により,狭い交雑帯が維持されているものと推測される.(2)長野県天竜川流域における雑種起源個体群の解明(アオオサムシ〜イナオサムシ〜テンリュウオサムシの関係):中間的形質を示すイナオサが他2種の過去の交雑に起源するものと推定されているが,アオオサとテンリュウオサの分布境界の形態変異は複雑で,イナオサ以外にも交雑による影響を受けた集団が存在することが明らかになった.アオオサとテンリュウオサの間では,交尾前に異種識別が行われず,また交尾の際に交尾器の破損が起こることはほとんどなかった.F_1個体はイナオサのように,中間的な形態を示す.その生存繁殖力については今後継続的に研究する.
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