研究概要 |
人為的な生息地の破壊により,野生生物の生息地は細分化されパッチ状になっている。本研究では,パッチの質や空間配置が捕食者-被食者系の存続可能性に及ぼす影響を数理モデルを用いて解析した。ロジスティック成長をする被食者と捕食者の間にロトカーボルテラ型の相互作用を仮定し,(1)被食者が1種の場合と,(2)捕食者を共有する2種の被食者の場合を考える。後者では被食者間の直接競争は無視する,パッチ間を移動するのは捕食者だけであるとし,パッチ間移動は拡散型であると仮定する。パッチの質を記述するパラメータとして被食者の環境収容力を用いる。被食者の環境収容力が大きい好適なパッチ(source)では捕食者は存続可能であるが,不適なパッチ(sink)では他のパッチからの移入がなければ捕食者は滅びる。複数の被食者が捕食者を共有する場合,見かけの競争による被食者の絶滅が起こるが,被食者の環境収容力が大きいほどこの効果は強い。環境収容力が大きく被食者の1種が滅びるパッチをsuper-abundant sourceと呼ぶ。一つのsourceまたはsuper-abundant sourceと複数のsinkがある環境で,パッチの空間配置として,(A)中央の好適なパッチを不適なパッチが取り巻く中心型と,(B)好適なパッチを端に不適なパッチが直線的につながる直線型の二つを扱った。不適なパッチの数とパッチの空間配置が個体群の存続に及ぼす影響は,捕食者と被食者で逆であることが明らかになった。捕食者はパッチ配置が直線型でsinkが少ないほど存続しやすいが,見かけの競争に弱い被食者はパッチ配置が中心型でsinkが多いほど存続しやすい。この効果は,捕食者の移動の活発さにも依存し,捕食者の移動率が小さいほど,不適なパッチの数よりもパッチの空間配置の影響を方が大きいことが明らかになった。
|