研究概要 |
本研究は、サイトカイニン作用の分子的な機構を知るために、初期に起こる遺伝子発現の変化に着目し,サイトカイニンによって迅速かつ特異的に抑制される遺伝子CR20の性質を明らかにしようとして行われた。cDNAクローンとゲノミッククローンの解析により,この遺伝子は三つのエクソンから成り、第2イントロンのスプライシングの違いにより,少なくとも3種類の転写物が生じることがわかった。しかし,どの転写物にも長いORFは認められず,タンパク質をコードする塩基配列かどうかを予測するコンピュータープログラム(TESTCODE)による解析を行った結果,これらの転写物がノンコーデンィングRNAであることが示唆された。アラビドプシスのcDNAライブラリーから得たこれと相同のAtCR20-1 cDNAもTESTCODE解析の結果,転写物がノンコーディングRNAであることが示唆され,CR20RNAとAtCR20-1 RNAには,安定なステム構造をつくることができる180ntから成る特徴的な配列が保存されていることが明らかになった。これらのことから,CR20やAtCR20-1の転写物は新しい機能をもつノンコーディングRNAである可能性が考えられる。そこで,その機能を調べるために,第2イントロンを含むcDNA(CR20-A)と第2イントロンを含まないcDNA(CR20-C)を,それぞれCaMV 35Sブロモーターにつないで,タバコに導入し過剰発現させることを試みた。CR20-A導入タバコのうち1個体は,第5葉まで展開したところで,主葉脈に沿って白化が始まり,成長点が消失するなど,顕著な形態異常が観察され,もう一つの固体は他の個体に比べて葉の色が薄かった。CR20-C導入タバコでは特に形態に異常はみられなかった。キュウリにおいて,CR20の発現は,サイトカイニンの重要な作用点である緑化初期に大きく変化することがわかっている。CR20-A導入タバコに葉の色の異常がみられたことは非常に興味深い。このような形質とCR20の発現との相関を現在調査中である。
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