研究概要 |
甲殻類の心臓調節における神経伝達物質の特定を生化学的に行った。材料には海産の等脚類オオグソクムシ(Bathynomus doederleini)をもちいた。心臓神経節、中枢の神経節、神経分泌器官(囲心器官)のホモゲネート中の神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミンなどのモノアミンおよびグルタミン酸やGABAなどのアミノ酸)の含有量を測定した。本年度は特に心臓神経節の興奮性アミノ酸神経伝達物質について重点的に研究した。われわれはこれまでに、生理学薬理学的研究からオオグソクムシでは、心臓神経節運動神経がグルタミン酸作動性であることを推定したが、心臓神経節中にグルタミン酸が存在することを確かめることによってさらに確実にするため、アミノ酸をOPA試薬により蛍光物質に変えHPLCカラムで分離し、蛍光測定法により目的のアミノ酸を検出する、HPLC-OPAデリバチブ法を適用した。組織サンプルの作製法およびその必要量は、前年度の研究で明らかになったので、その方法を用いた。定量分析の結果、オオグソクムシ心臓神経(0.55mg)および心筋(7.57mg)の抽出液から、L-glutamate,9117.6+/-288.9pmol/mg wet tissue;L-aspartate,4864.2+/-185.8pmol/mg wet tissue,および、L-glutamate,788.4+/-9.6pmol/mg wet tissue;L-aspartate 477.7+/-2.6pmol/mg wet tissueをそれぞれ検出した。運動神経の細胞体がある心臓神経節および、神経終末を含む心筋からグルタミン酸作動性神経支配の可能性を示す濃度のアミノ酸が検出された。これによりわれわれの推定は生化学的にも支持された。アスパラギン酸が同時に存在することは以前から甲殻類骨格筋の神経節接合部で知られているが、心筋でも同様その機能はまだ不明である。 アセチルコリンは十脚甲殻類心臓に対し顕著な興奮性作用を示すことは古くから知られていたが、このアセチルコリンの興奮作用の機序については全く知られていなかった。最近、筆者の一部による、薬理学的実験でオニヤドカリ(Aniculus aniculs)の心臓神経節小細胞の神経伝達物質としてアセチルコリンが最有力候補であることが示された(Yazawa and Kuwasawa,1992)。今回、オニヤドカリおよびアメリカンロブスター(Homarus americanus)の心臓神経節でHPLCを用いてアセチルコリン分析を行った結果、両種でアセチルコリンを検出した。アメリカンロブスター心臓神経節ではアセチルコリンの定量測定を行い、心臓神経節内アセチルコリン含有量は129±3.2fmol/mg wet weightの値を得た。本研究により心臓神経節小細胞そのものがコリン作動性ニューロンであることの生化学的証拠が得られたものと考える。
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