研究概要 |
亜熱帯域から冷温帯域にまたがるいろいろな植生帯で,クロショウジョウバエ区の野外採集と生態調査を行った.亜熱帯域ではangor種群,polychaeta種群,D.fluvialisが,暖温帯域ではquadrisetata種群とokadai亜群が,さらに冷温帯域ではmelanica種とvirilis種群が優占種となっていた.quadrisetata種群は渓流に浸っている樹皮を繁殖物質とし,本種群とokadai亜群は1化性の生活史をおくることが分かった.微生息環境の調査では,quadrisetata種群が最も強い水辺依存性を示した.これらの野外調査を通して新たに,2新種,3初記録種,および核型と遺伝子に分化が生じている数種の島嶼的亜種が発見された. 野外採集で得られた種と外国産の近縁種を用いて,核型比較研究,生殖的隔離機構の研究,およびアルコール脱水酸素酵素遺伝子解析とミトコンドリアDNA遺伝子解析を行った.これらの研究から,1)polychaeta種群はverilis-repleta放散の極め早い初期に分岐したこと,2virilis種群の適応放散はクロショウジョウバエ区のなかでは最近の出来事であること,3)robusta種群は3亜群からなる多系統群であること,4)そのうちokadai亜群はquadrisetata種群と姉妹関係にあり,一方robusta亜群はmelanica種群と類縁関係にあること,5)北米のmelanica種群は東アジアのD.tsiganaと祖先を共有することなどが明らかとなった. 以上を研究結果を基に,北半球に広範囲に分布しているクロショウジョウバエ区の適応放散の歴史を古地理や古環境の変遷とあわせて考察した.
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