研究概要 |
アジアとくに東アジア地域において,栽培ブドウを含むブドウ科植物に寄生し,さび病を引き起こす病原菌はPhakopsora ampelopsidis Dietel & Sydowであるとされていた.本研究は現在Phakopsora ampelopsidisと呼ばれる菌が一種ではないことを明らかにする目的で行った.ブドウ科3属7種の植物に寄生するさび菌を研究材料とし,その形態的特徴,生活環および宿主範囲について研究を行い,以下の結果を得た:1)ブドウ属,ノブドウ属およびツタ属に寄生する菌は夏胞子世代の形態的特徴が異なる.しかし冬胞子世代の形態的特徴には違いが認められない;2)ブドウ属,ノブドウ属およびツタ属に寄生する菌はそれぞれ同属内の異なる種には寄生性をもつが,異なる属の植物には寄生性がない;3)栽培ブドウを含むブドウ属に寄生する菌は,アワブキ属のアワブキに精子・さび胞子世代を形成する異種寄生性の生活環をもつ.しかしアワブキ属のミヤマハハソには精子・さび胞子世代を形成しない;4)ツタ属に寄生する菌はブドウ属に寄生する菌と同様に,アワブキ属のアワブキに精子・さび胞子世代を形成する異種寄生性の生活環をもつが,ミヤマハハソには精子・さび胞子世代を形成しない;5)ノブドウ属に寄生する菌も異種寄生性の生活環をもつこと明らかであるが,その精子・さび胞子世代はアワブキとミヤマハハソのいずれでもない.この結果,アジアにおいてブドウ科植物に寄生しさび病を引き起こす病原菌は形態的特徴と生態的特性で識別可能な3種であることが明らかとなった。
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