研究概要 |
被子植物の起源については未解決の問題が多いが,中でも「2枚の珠皮をもつ倒生胚珠の起源」は被子植物の進化を解明する上で鍵をにぎる重要なテーマである.本研究では昨年度に引き続き,筆者らの仮説,「倒生胚珠の外珠皮は,半円状に発生して幌状形態を示し,コップ状形態を示す内珠皮とは大きく違う」を検証するため,モクレン目,クスノキ目の胚珠の形態形成の比較を行った.特にクスノキ目のトリメニア科,モニミア科,ラクトリス科などで詳細な研究を行った結果,昨年度のモクレン目での研究結果とあわせて次のような結論を得た.シキミモドキ科,デゲネリア科,ユ-ポマチア科,ラクトリス科などでは,外珠皮は完全に幌状であったが,モクレン科,モニミア科,トリメニア科などで珠柄腹側に形成された突起状構造物と幌状外珠皮が癒合し,外見上コップ状を呈する外珠皮が完成した.外珠皮は本来背腹性を示す葉状器官であるが,進化の過程で珠柄突起との間に癒合を起こし,コップ状の複合器官となったと考えられる.外珠皮は化石裸子植物グロッソプテリス類の生殖葉と相同器官であることが示唆される. 倒生胚珠と直生胚珠の進化関係を知るために,スイレン目と古生草本類コショウ目の直生胚珠について研究を行った.コショウ科のZippeliaにおいて,外珠皮は内珠皮を取り囲むように初めから完全なリング状に発生を開始し,コップ状になることが示された.次に半倒生胚珠をもつモクレン目ニクズク科2種の形態形成を比較した.これらの半倒生胚珠では外珠皮と珠柄突起の系統発生的癒合が進んでおり,両者が発生学的に区別することができなかった.倒生→半倒生→直生の進化過程を形態形成過程から裏付けることは困難であった.
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