研究概要 |
研究目的:本研究は,「阿哲植物群」と総称される興味深い植物群が生育する阿哲石灰岩地において,その蘚類フロラを明らかにすることを目的として行った. 方法と材料:「羅生門」など主な産地数カ所で野外調査を行い,標本を採取するとともに,今までに当該地域から採集された標本を収集した.集めた総計約5000点の標本を,産地ごとに整理し,光学顕微鏡を用いて種名同定を行った.実体が曖昧なために,種名同定が難しかったアオギヌゴケ科蘚類数種に関しては,京都大学理学部植物学教室の植物標本庫に保管されているフォーリ-・コレクションの中のタイプ標本と比較検討して,種名同定を行った.また,種名同定できた種類のそれぞれに関して,分布と生態に関する文献探査を行った. 結果:本研究の結果,当該地域の32カ所の産地から,蘚類の37科,111属,196種を確認することができた.この中の,27種は,岡山県新産になるもので,その中の,Didymodon leskeoides Saito(センボンゴケ科)と,スギバシノブゴケ(Thuidium vestitissimum Besch.シノグゴケ科)の2種は,西日本からは初の報告になるものであった.また,当該地域には,多くの稀少種が生育しているが,それらの生育状態を確認した. 確認できた196種の分布・生態を検討したところ,約3分の1の種類は,岡山県では,当該地域だけから報告されていることが分かった.また、その中の20数種のみが,厳密な意味での「好石灰性」蘚類と考えられ,その他の種類は,石灰岩地形によって形成された特殊な環境に遺存的に生育しているものと推察された. 本研究の成果は,平成8年度の植物学会中四支部大会で報告し,また,「自然環境科学」vol.9に投稿予定である.さらに,現在新見市教育委員会が取り組んでいる「羅生門」の保護・復元活動に活用される予定である.
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