研究概要 |
資料収集 北海道(平成7年度),秋田(平成8年度),奈良大台ケ原(平成9年度)においてカブトゴケ属,アンチゴケ属地衣の収集を実施した.北海道では当初期待したとうりの成果があったが,他の秋田,奈良,四国では大気汚染のためかほとんど大型のカブトゴケ類は消滅しており,充分な量を採集することができなかった.また,各地の標本館に所蔵する標本を借覧して化学分類研究にあてた.とくに,フィンランド・ヘルシンキ大学,オーストリア・グラツ大学のチベット,中国地方の採集品が新たに加わった. 地衣成分 日本産の多量の資料を得たことから,セズジアンチゴケでズブロバ-ル酸,オクソロバ-ル酸の新成分が明らかになった.カラフトカブトゴケはレチゲラ酸Bのみであり,シアノバクテリアのカブトゴケモドキのレチゲラ酸AとBとは違っている.ツブカブトゴケにはジロフォール酸のほかに4-Oメチルジロフォール酸かジロフォール酸メチルエステルが含まれている.カブトゴケ類のアトラノリン様物質はプソイドシフェラリンAであることが判明した.セカロン酸Aがアンチゴケ属で種に特異的に出現する. 形態 凍結ミクロトームの使用により,地衣体の皮層とくに下皮層の構造を調べた.これにより,カブトゴケ属(広義)をいくつかの属に分けることを提案した.新属として中南米のDurietzia属,古い属の復活としてLobarina属を認めた. アンチゴケ科 以上の新知見を基に,新種12を加えて,世界のアンチゴケ科地衣類はツヅレウメノキゴケ属(2種),アンチゴケ属アンチゴケ節8種,同セスジアンチゴケ節23種でさらに未記載の新種2である. カブトゴケ科 中南米を中心として研究を発表し,世界のカブトゴケ類を以下のようにまとめた.カブトゴケ属カブトゴケ節11種,同カブトゴケモドキ節6種,同オレゴンカブトゴケ節1種,ハイイロカブトゴケ属2種,Durietzia属5種,さらにエビラゴケ類については主としてオーストリア産の資料待ちの状態で研究が未完であるが,ヤマトエビラゴケ類11種,エビラゴケ類7種,Lobaria peltigera類8種,Labaria patinifera類8種を認めた. ツメゴケ科 当初よりモノグラフ的研究を予定せず,緑藻とシアノバクテリアの共生藻の違いや地衣化による形態,成分の違いを検討する材料とした.形態形成と成分については密接に関係していることが判明した.
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