研究概要 |
琉球列島は熱帯から流れてくる黒潮の真っ只中にあり、各種の熱帯性海洋生物を育んでいる。海水魚も同様に熱帯魚を主体とした豊かな魚類相を形成している。その種類は1200種で、日本でみられる全魚種の4割を超える。わが国の暖流系魚類の寄生虫相の実態を知るためには、黒潮の強力な影響下にある琉球列島の調査が欠かせない。 琉球列島で海水魚の寄生虫をはじめて調べたのはOzakiで、1935年と37年に吸虫5種を発表した。次いでYamagutiは1941年に線虫3種、42年に吸虫36種を報告した。近年Uchidaは奄美大島で、Machidaは琉球列島の各地で海水魚を調べ,1976-96年に単生虫4種、吸虫50種、線虫1種、鉤頭虫1種を記録した。Williams & Williamsは1985年沖縄の瀬底島に滞在して、単生虫12種、吸虫35種、線虫9種を報告した。 インド太平洋海区のなかで、西太平洋亜区は造礁サンゴやその他の沿岸性熱帯海洋生物が最も繁栄している海域である。沿岸魚の種数を比較してみると、フィリピン・スラウェシ・ニューギニア近海が2000-2500種、グレートバリアリ-フ・パラオ・ヤップ1300種、琉球列島1200種、マーシャル・サモア800-900種、ハワイ460種と見積られている。熱帯魚には多くの吸虫が寄生しているが、これまでにフィリピン58種、ハワイ314種、グレートバリアリ-フ236種が認められている。ハワイで魚種に比べて吸虫の種数が多いのは精力的な調査の成果であろう。グレートバリアリ-フでは1300種の魚に2270種の吸虫が寄生していると想定されている。琉球列島でもこの数に匹敵する吸虫の存在が考えられる。すなわち実在する吸虫の5%が記録されているに過ぎない。今後は多数の未整理標本を整理、発表するとともに、琉球列島沿岸魚の寄生虫相の生物地理学的解析を行いたい。
|