研究概要 |
1.比較研究の基礎資料を充実させるため,平成7年6月,平成8年6月および7月,ならびに平成9年6月および7月に北海道各地において成虫の研究資料収集を目的とした調査を行った.3年間の調査を通じ未記載種および日本未記録種の標本を含む多くの基礎資料が得られた。特に,支笏湖周辺ならびに網走地方のカラマツ林に大発生している3種のマツヒラタハバチについては多数の標本を採集し,正確な同定が可能となった. 2.上記の調査の結果得られた資料に既存の資料を加えて,マツヒラタハバチ亜科の分類と系統解析に有用な形質の検討を行った.その結果,種レベルの分類には成虫の体各部分の色彩と班紋,頭部(特に側触角域)の点刻および微毛の生え方などの表面構造,雄交尾器の形態など,属レベルの系統解析には,翅脈相,前脚脛節の刺や鱗片状毛の配置,口器,産卵管の形態などの形質が特に有用であることが分かった.また幼虫の形態や寄主特異性・摂食習性も種の分類に重要であるが,この点についてはまだ知見が少なく,今後の課題である. 3.日本産マツヒラタハバチ亜科の分類学的整理を行い,2属25種を認めた.このうち8種は,未記載種あるいは日本から記録のない種であった.このうち3種については,ヨーロッパからシベリアにかけて産する種ときわめて近縁であり,その関係については,まだ結論を出すに至っていない. 4.マツヒラタハバチ亜科の属間の系統関係を明らかにするため,系統解析プログラムを用いてヒラタハバチ科9属間の系統関係および各形質の進化に関する最節約的な仮説を作成した.今後はさらに系統解析に有用な形質の発見に努力し,今回得られた系統仮説をテストしていきたい. 5.上記の研究の過程で明らかになった新知見の一部は,17編の論文として学会誌等に発表した.
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