交流薄膜冷陰極素子については着想以来、硫化物などの材料について電子放出を確認してきたが、その中で酸化物は他の材料と違った特異な放射特性を示すことが判明してきた。よって、本研究は、酸化物の電子放射についてより詳しく実験研究を行い、放射機構を明らかにすることを目的とした。 第一年度(平成7年度)には、酸化亜鉛薄膜を加速層とする目的で、その製膜方法を検討し、間欠化成スパッタ法という新しい製膜法を考案した。また、オイルフリーなターボ分子排気系を導入することにより、これまでより一桁高い真空度での放射測定を可能とした。 第二年度(平成8年度)には、新しくRFスパッタ装置を導入することにより、これまでより高品質の五酸化タンタルや、二酸化珪素の製膜が可能となった。これらの薄膜と、酸化亜鉛や電子ビーム法により蒸着した酸化イットリウム、酸化アルミニウム薄膜の電気的特性を測定して比較検討した。その結果、これら5種類の薄膜の中では二酸化珪素を電子加速層に、五酸化タンタルを電子ブロック層とする組み合わせの素子が最適と考えられたので、これを作製して、電気特性や電子放射の測定を行った。並行して、五酸化タンタルを電子ブロック層とし硫化亜鉛を加速層とする比較のための素子や、酸化亜鉛加速層の素子なども作製し放射特性を調べた。 その結果、3種の加速層すべてについて電子放出を確認し、二酸化珪素の素子についてはその放射特性が他の酸化物薄膜よりも硫化物薄膜に近い放射特性を持つことが判明した。その主たる理由は、他の酸化物膜の素子では吸収電流が多いが、二酸化珪素では比較的これが少ない為と考えられる。しかし、二酸化珪素でも吸収電流が除き切れず、これが無効電流となって硫化物に比べて放射効率を著しく低下させている。よって、種類の豊富な酸化物を加速層に利用するためには不純物や格子欠陥などによるイオン電流を除くことが、必要である。
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