研究概要 |
多次元光ヘテロダイン計測法は,干渉縞のように空間的に位相変調された「疑似周期パターン」の位相分布から測定対象の物理情報を高い分解能で抽出するための基本手段となっている.しかし,測定対象のダイナミックレンジが大きくて,位相値に換算して2πをこえると(-π,π]の主値の間に折り畳まれて位相分布に2πの不連続段差を生じる.そのため,折り畳みにより生じた不連続段差を取り除き元の位相分布を復元する位相接続法が必要とする.本研究では,干渉縞にノイズを含むスペックル干渉計測のように,従来の位相接続法が適用できない悪条件下の多次元ヘテロダイン計測により得られた位相データを接続するための新しい位相接続の基礎原理を提案し,それを現実の計測データに適用してその有効性を実験的に検証した.その具体的な内容は以下の通りである. 1.相互振幅情報を利用した位相接続法(相互振幅最大木法)の提案 大きなノイズの存在する場合,従来法では(-π,π]に折り畳まれた位相分布をどの画素から順に位相接続していくかの接続経路の選択により全く異なる位相分布が得られてしまう.そこで,本研究では,正しい位相分布にできるだけ近い結果を与える位相接続経路の選択するための新戦略として,これまで捨てられていた振幅情報を用いることにした.まず,疑似周期パターンの振幅の大きなところは干渉縞でいうと縞のコントラストが高く位相の計測値の信頼性が高いということに着目し,隣接する画素間の位相計測値の相互信頼度の測度として「相互振幅」という新しい概念を導入した.そして,「相互振幅」の大小により画素間の位相計測値の相互信頼度の優劣のランクづけをして信頼度の高い画素間を優先的に接続するように位相接続経路を選択する新しい位相接続法を提案した.また,それを実現するための具体的なアルゴリズムが画素を節とし「相互振幅」を枝の重みとする平面グラフの最大木探索問題となることを示した. 2.位相情報を利用した既存の方法との比較による優位性の実証 相互振幅情報を利用した我々の方法と比較すべき既存の方法として,計算効率と位相接続能力がともに優れているとして国際的に知られている「位相差最小木法」を選んだ.これは,隣接する画素間の「位相差」を画素間の位相計測値の相互信頼度の測度とするもので,画素を節とし「位相差」枝の重みとするグラフの最小木を構成しそれを位相接続経路とする方法である.物体自身に不連続位相を持つ3次元立体計測の実験とスペックルノイズの干渉計測の計算機シミュレーションの両方により悪条件下の位相接続能力を比較した.その結果,われわれの提案した方法の優位性が検証された.
|