研究概要 |
本研究では,延性と強度の異なる耐熱樹脂(Polyimide,PEEK)と汎用Epoxy樹脂を用いた一方向炭素繊維強化複合材料に対して,その非主軸静的引張挙動と非主軸疲労強度に与える樹脂特性の影響を実験的に検討した.得られた主な研究成果は,以下のとおりである. 1.非主軸静的引張挙動:Epoxy材およびPEEK材の100°Cにおける応力-ひずみ関係はθ=10°^〜60°に対して顕著な非線形性を伴うが,これ以外の繊維配向角に対する試験結果は破断までほぼ線形的な挙動を示した.Polyimide材は,θ=10°,30°の試験で若干の非線形性が認められる程度で,PEEK材(θ=45°^〜90°)ほど顕著な非線形性を示さず,相対的に低い応力で破壊した.Polymide樹脂の持つ延性の高さが一方向強化材の挙動に十分に反映されなかった原因が,繊維分布の不均一による微視的な構造欠陥にあることを断面の光学顕微鏡写真観察に基づいて確認した.なお,いずれの複合材料についても,応力-ひずみ関係の非線形性は100°Cの方が室温より低い応力レベルで現れた.ただし,PEEK材の強度低下は小さく,比較した他の材料に比べてPEEK材は極めて高い靭性と高温強度を示した.使用した炭素繊維複合材料の弾性特性と非主軸破壊強度は,それぞれ,直交異方性弾性理論とTsai-Hill則によって適切に予測することができた. 2.非主軸疲労強度:Epoxy材とPEEK材のS-N曲線は,いずれの繊維配向角についても,直線で近似することができた.Polyimide材の場合,θ=10°に対する非主軸疲労強度が高サイクル疲労の範囲で急激に低下するため,すべての強度比についてS-N関係を直線で近似することはできなかった.PEEK材の高温疲労特性は,Epoxy材およびPolyimide材のそれに比べて著しく高く,高サイクル疲労範囲においても高い強度比を示した.ひずみ変動幅と破断繰返し数の関係を用いて整理すると,疲労データは繊維破壊とマトリクス破壊をそれぞれ主体とする2つのグループに明瞭に分かれた.いずれの一方向強化材も,繊維配向角が大きくなるにつれて疲労強度が低下した.100°CにおけるEpoxy材の疲労強度は,室温におけるそれよりも低くなった.繊維強化複合材料に対するHashinモデルによって,Epoxy材,Polyimide材およびPEEK材の非主軸疲労強度を定性的に予測することができた.
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